特性 析出硬化ステンレスのメカニズムWhat's the precipitation hardened stainless steel? 析出硬化とは、固溶化熱処理(溶体化熱処理)の後、時効硬化(析出硬化)を人工的に行うことをいい、ステンレスの600番台(SUS630 ,SUS631)、マルエージング鋼、ベリリウム銅、アルミニウム合金の2000番系、6000番系、7000番系及びアルミニウム合金鋳物などのT6処理が代表です。 高硬度化のメカニズム 熱処理プロセス 硬度と耐食性の関係 1.高硬度化のメカニズム 鉄鋼材料を強化する基本的な手法は、熱処理による相変態ならびに第二相の微細分散析出です。 1.1 焼入型(マルテンサイト系ステンレス) 焼入れによって相変態にともなうマルテンサイトという硬い基質が形成され、焼きもどすと合金元素が炭素と結合し、炭化物粒子が形成されます。したがって、炭素含有量が多いほど、また炭化物形成元素が多いほど高い強度が得られます。 SUS420J2、HRC56 (焼入れ・焼もどし) 倍率:400倍 SUS440C、HRC58 (焼入れ・焼もどし) 倍率:400倍 1.2 析出硬化系ステンレス 一般的に炭素を含まない鉄合金のマルテンサイトは軟らかく展延性に富むが、反面強度が低い。これを焼もどしても炭素がほとんど存在しないため、炭化物の析出硬化は望み得ない。炭化物の代わりに金属間化合物の微細な析出物粒子を分散させ強度を高めたのが、析出硬化系ステンレス鋼のSUS630、SUS631や超高張力鋼のマルエージング鋼です。 シリコロイ鋼の中では、シリコロイA2およびシリコロイXVIが析出硬化のメカニズムで、特にシリコロイXVIのマトリックス組織が微細化していることが特徴的です。 析出硬化のメカニズムは、材質によって金属間化合物、析出メカニズム、諸特性は異なります。 SUS630はCu-rich層、SUS631はNiAlの金属間化合物、マルエージング鋼は炭素・窒素をほとんど含まない鉄合金のマルテンサイトに極めて微細で棒状のNi3Moの金属間化合物を分散析出します。 シリコロイA2はNb-Si系、シリコロイXVIは微細なマトリックスにTi-Si系、Ta-Si系の金属間化合物を分散析出させて高硬度を得ます。 シリコロイA2、HRC52 (時効硬化熱処理) 倍率:200倍 シリコロイA2、HRC52 (金属間化合物、Nb-Si系) 倍率:5000倍 シリコロイA2 (時効硬化)、HRC52 シリコロイXVI、HRC57 (時効硬化熱処理) 倍率:200倍 シリコロイXVI、HRC57 (金属間化合物、Ti-Si系、Ta-Si系) 倍率:5000倍 シリコロイXVI (時効硬化)、HRC57 SUS630、HRC43 (時効硬化熱処理:H900) 倍率:200倍 SUS630、HRC43 2. 熱処理プロセス 2.1 焼入れ・焼戻し 「焼入れ」はオーステナイト状態から急冷することで、組織をマルテンサイトに変態させることです。マルテンサイトは炭素原子を強制的に溶かし込んだ鉄の結晶で、固溶強化のメカニズムで硬度が高くなります。 焼入れ後のマルテンサイトは硬くもろいので、「焼戻し」により硬さと靭性の調整を行います。 Fig.1焼入れメカニズム SUS420J2、SUS440C 2.2 時効硬化熱処理 溶体化熱処理で過飽和に固溶した析出硬化元素を、「時効硬化」により第2相を微細分散析出することで硬化します。 析出硬化系ステンレスは焼入鋼と比較して、低温の熱処理で高硬度化するので、焼入れでの諸問題(熱処理変形、歪み、寸法変化、焼き割れ、残留オーステナイトに起因する経年変化、他)が少ないのが特徴です。 Fig.2析出メカニズム SUS630、シリコロイA2、シリコロイXVI 3.硬度と耐食性の関係 一般的に硬度と耐食性は反比例します。析出硬化系ステンレスの耐食性はオーステナイト系よりは劣りますが、マルテンサイト系、 フェライト系より良好で、硬度と耐食性のバランスに優れています。 Fig.3硬度と孔食電位の関係 関連情報 シリコロイA2 シリコロイXVI SUS630 マルエージング鋼 ステンレスの熱処理寸法変化 関連事例 関連事例はありません。 関連Q&A 析出硬化系ステンレスって? 関連タグ SUS630, シリコロイA2, シリコロイXVI, ステンレス, マルエージング鋼, マルテンサイト, 時効硬化, 析出物, 析出硬化, 析出硬化型, 焼もどし, 焼入れ, 硬度, 金属間化合物 ページランキング 硬度換算表 SUS440C SUS316L SUS630 SUS420J2