熱処理

経年変化:シリコロイXVIの残留オーステナイト測定結果
Retained Austenite

焼入硬化型の金型材は多くの金型に使用されていますが、経年変化による金型の寸法変化の問題があります。 焼入硬化は「オーステナイト化した鋼を急冷してマルテンサイトにすること」ですが、その際100%マルテンサイトになるわけではなく、必ず幾分かのオーステナイトが残留します(残留オーステナイト)。

この残留オーステナイトは鋼のC量が高くなるほど多くなり、また、焼き入れの際の冷却速度によっても変化します。 焼き入れ直後の残留オーステナイトの量は、SC材やSK材のような炭素鋼においては数%から15%くらい、SKSやSKD等の合金工具鋼では20%前後、SKHにおいては30%に達することがあるとされています。

この残留オーステナイトは不安定な存在で時間の経過とともにマルテンサイト化し、その際に体積変化を生じるため寸法変化として現象します。

今回、シリコロイXVI鋼の経年変化の可能性を考察するため、残留オーステナイトを測定しましたのでご報告致します。

1. 試験方法

低温窒化処理は通常の窒化処理(570℃)よりも低い温度で処理するのが特徴です。SUS316の場合、通常の窒化処理と比較すると窒化膜が緻密で、以下のような特徴があります。

  1. 各素材サンプルの熱処理および経年変化(1ヶ月間)を実施した後、測定サンプルを作製。
    形状:18mm×19mm×5mm 測定表面:バフ研磨仕上
  2. X線回折装置により、残留オーステナイト量を測定。
X線回折装置による残留オーステナイト測定
Photo.1X線回折装置による残留オーステナイト測定

2. 試験結果

table.1 残留オーステナイト測定結果
No 材質 熱処理1 熱処理2 熱処理3 経年変化 残留
オーステナイト量
(%)
固溶化 / 焼入 時効硬化熱処理1 時効硬化熱処理2
01 SL-XVI 1050℃×1hr/WQ       0.20
02 SL-XVI 1050℃×1hr/WQ 450℃×8hr/AC     0.08
03 SL-XVI 1050℃×1hr/WQ 450℃×8hr/AC 200℃×4hr/AC   0.08
04 SL-XVI 1050℃×1hr/WQ     200℃
(30日間)
0.23
05 SL-XVI 1050℃×1hr/WQ 450℃×8hr/AC   200℃
(30日間)
0.14
06 SL-XVI 1050℃×1hr/WQ 450℃×8hr/AC 200℃×4hr/AC 200℃
(30日間)
0.21
07 SUS420J2 1050℃×1hr/WQ       1.43
08 SUS440C 1050℃×1hr/WQ       5.88
09 SUS440C 1050℃×1hr/WQ       5.47
  1. SUS440CおよびSUS440Cの焼入硬化型ステンレスの残留オーステナイト量は1.43~5.88%であるのに対し、シリコロイXVIは0.08~0.23%と少ないことが判明しました。
  2. シリコロイXVIのC量は極低炭素で0.02%以下と非常に少ないこと、時効硬化熱処理により微細析出物を析出して硬化するメカニズムであることに起因するではないかと推測されます。
  • 本試験結果の残留オーステナイト量は絶対値ではなく、あくまで相対的に考える必要があります。
  • X線装置線源の官球の違いによりX線の強度や特性が異なり、数値も異なります。

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